フキゲン・ハートビート



「あ、ちなみにコッチが洸介の彼女な?」


アキ先輩が思い出したように言った。

その視線の先にいた、ベレー帽をチョンとかぶった女性と視線がぶつかると、彼女のほうが先に頭を下げてくれた。


「こんばんは! 相川(あいかわ)季沙っていいます。こないだはろくに挨拶もせずに、ごめんなさい」


かわいらしい声だ。

声だけじゃない。
しゃべり方も、笑顔も、しぐさも、佇まいも。

改めて見ると、顔の造形がどうというより、雰囲気の全部が抜群にかわいらしい女性だ。

鎖骨あたりまで伸ばした黒髪がやわらかそうで、なんというか、これぞ女の子代表という感じ。
絶対いいにおいがすると思う。


「ええと、蒼依ちゃんは中学の後輩なんだよね? ヒロくんと同じクラスだったとか」

「はい、そうなんです。ただそれだけなのにこんな会に呼んでいただけて、恐縮というか、なんというか……」

「ふふ、そんなかしこまらなくても大丈夫だよー」


オマケにとっても優しいだなんて!

こりゃ、洸介先輩だってコロッと惚れるよ。
こんなに素敵な女の子が幼なじみで、好きになる以外にどうしろっていうんだよ。


「じゃ、そろそろ入るかぁ」


アキ先輩が先陣を切り、順番にぞろぞろとお店の暖簾をくぐっていく。