フキゲン・ハートビート



「……えっと、」

「あ、自己紹介もナシにごめんね! 須藤(すどう)みちるっていいます。見た目ほどコワくないつもりだから、ぜひ仲良くしてね」


派手なメイクにパンクファッション、耳にジャラジャラぶら下がっているのはたくさんのピアス。

たしかにおっしゃる通り、見た目はものすごーくコワそうだけど、笑ったときの顔がすごく無邪気でかわいい。
いい人そうだ。

それはさておき、この方はいったいどういう関係で、こちらに……


「あ、みちるさんは、オレの彼女」

「へ……」

「マジで美人っしょ?」


得意げに笑うアキ先輩を見上げながら、気のきいたことをなにひとつ言えない自分が情けない。


アキ先輩に恋人がいるということならうすうす知っていた。

新奈いわく、ファンのあいだでも信憑性の高い噂があるらしいし、その存在を隠すつもりはさらさらないのだろう。


でも、やっぱりなんか、ビミョーにショックというか。

でもまあ、そりゃそうだよね。彼女くらいいますよね。バンドマンだし。芸能人だし。半田彰人だし。それも完全無欠な美人に決まっていますよね。

ミチルさん、いい人そうだ。
くやしいほど、お似合いだ。


……ていうか、べつにアレなんだけど。

あたしもアキ先輩に恋をしていたとか、断じてそういうんじゃないけど。


「……はい。あの、真島蒼依です。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。それにしてもキレーな子だねえ。スタイルもいいし」


そんな、あなた様のほうが数億倍キレイです。
なんといってもあのアキ先輩に見初められた女性ですもの。