3番テーブルに座る背の高い男性のお客さんは、イヤホンを両耳に差しこんで、なにか小説のようなものを読んでいるところだった。


「お待たせいたしました。ホットコーヒーでございます」


だから聞こえているのかもわからないけど、いちおうマニュアルなのでそう言うと、彼はあたしに気付いてすぐにイヤホンを抜いてくれたのだった。

ただの店員にもこういう気遣いをしてくれるのってけっこううれしいものだな。


そう思うのと同時に、こないだの半田くんの態度を思い出して、なんとなくもやっとした。

もうあれから2週間ほどが経つけど、まだ定期的に思い出すし、まだもやっとする。


「スミマセン、ありがとうございます」


お客さんが言った。
優しくて、穏やかなしゃべり方。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか」

「はい、ありがとう」

「ごゆっくりどうぞ」


ぺこりと頭を下げ、踵を返し、右足を一歩踏みだそうとした、まさにそのとき。



「――ねえ、きみさ、こないだの子だよね?」



優しい声が、優しいトーンで、優しくあたしの背中にそう投げかけてきたから、思わず前へつんのめってしまう。


「え……?」


明らかに話しかけられておいて無視するわけにもいかないし、ふり返ると、そこには声と同じ、とっても優しい微笑みがあって。

……あれ。この顔、どこかで見覚えが……


「定期券の子だろ? 間違ってたらごめん」