「寛人くん」
無性に呼びたくなって、名前を呼んでしまう。
彼はコッチを向くと、なに、と言った。
いつものぶっきらぼうな声だけど、どこか優しい音にも聞こえる。
「寛人くんは、寛人くんのままで、いいからね」
ネコに似たかわいいつり目が驚いたようにまるくなった。
「そういう寛人くんが、好きだからね」
できるだけまじめに言った。
ちゃんと伝わってほしかったから。
でも、やっぱりどこかおどけた言い方になってしまって、ダメだな。恥ずかしい。
「おれも」
彼はそれ以上も、それ以下も言わない。
それじゃまるで寛人くんも寛人くんを好きだという意味に聞こえてしまう。
でも、べつに、聞きなおさなかった。
なにを言われているのか、もうじゅうぶんすぎるくらいに、わかっていたから。
黒を優しく照らす月明かりの下、ふたり分の影がひとつにくっついて、
頭上で輝く星たちよりもずっといとおしい真っ黒だって、心の底から、思った。



