「……ねえ、信じる?」
「信じない」
きっぱりと返事をしたネコ顔に、笑ってしまう。
信じないのかよ。
いまけっこうかわいいことを言ったと思うんだけど。
ちょっとは照れるとか、焦るとか、たまにはそっちも、してくれよ。
ふと、沈黙が落ちた。
あたしたちのあいだには、こんなふうによく沈黙が生まれる。
でも嫌な静寂じゃないから、むしろ少しの心地よささえあるから、よけいなことはしゃべらないで、おとなしく黙っておく。
いま、隣の男は、いったいなにを考えているのだろう。
なにを見て、なにを感じているのだろう。
いつも、なにを思いながら、生きているのだろう。
そういうこと、これからうんと、知っていけるだろうか。
あのころ教室で目も合わなかった存在が、いまこうして当たり前に、隣にいるように。
怒ってばかりだった顔が、いまはたくさん笑ってくれるように。
あたしは彼の世界を知って、彼はあたしの世界を知って、
やがて、ふたつの世界が溶けあうんだろうか。



