フキゲン・ハートビート



彼はその薄いくちびるに、同じく薄い笑みを浮かべる。


「ゲロ吐きながら、泣きながら、友達の恋愛話なんかでガキみてーにわんわん泣いてるおまえ見て、こういうやつは嫌いじゃないと思った」


ゲロ、吐きながら……

って、それって本当の本当に最初のほうのやつじゃんか!


「いやでもそれは『嫌いじゃない』であって、『好き』とは違うと思うんですよね!?」


寛人くんは笑った。

そうか?って、
そうだよ。

そうじゃないと困る。


だって、これからあなたが『嫌いじゃない』と感じた女性に対して、あたしはいちいちヤキモチを妬かないといけなくなるのだ。

それは、困ったことだよ。


「おまえは?」


ふいうちで質問が返ってきて、変な声が出た。


「いつからおれのこと好きだった?」


意外。

まさかそういう質問を、この男がするとは思っていなかった。


寛人くんの頭のなかにも花畑が広がっているのかもしれない。

想像するとかなり笑える。


でも、それも、あたしを好きだという証拠。


「うーん。……わかんない、けど」


あたしはいつからこの人のことを好きなんだろう。

改めて言われると、その境目って、ぜんぜんわからないな。


一生懸命、思い出す。

ゴハンつくって、食べてくれたときのこととか。

熱出して、看病して、かわいくアリガトウって言われたときのこととか。

大和に真剣に怒ってくれたときのこととか。


でも、どれも違うな。

どうにもしっくりこない。


なんでだろう?