フキゲン・ハートビート



寛人くんは普段、好きだと言わない。

間違った。
口に出しては、言わない。


「ワイン飲む?」

「今朝おれが運転してたの、おまえは隣で見てなかったのかよ?」


あ、そっか、と言うと、あきれたように笑われた。


この笑顔も、あたしを好きだと言ってくれている。

あたしには聞こえるよ。


ほんと、バカみたいだ。
エロイ人よりタチが悪い。

でも、まあ、恋人どうしになってまだ1か月だし、こういうお花畑な思考回路もしょうがないね、多少は。


だからあたしも笑った。

酔っぱらいみたいな笑顔になっていなければいいな。


「……ねえ、寛人くん」


なんとなく、空を見上げる。

星がとてもきれい。

こんな素敵な、晴れの日が、まさしく晴れで、本当によかった。


「『次は、おまえのことを誰よりも好きでいてくれて、もうウンザリだってくらい大事にしてくれる男を、ちゃんと選べよ』」


ぽんと、それだけを言うと、彼は驚いたように目を見張った。

ネコ目のつり目。
それでいて、ぱっちりふたえの、きれいな目。


「……覚えてる?」


あたしが軽く笑うと、ばつが悪そうに口をとがらせながら、寛人くんは覚えていると答えたのだった。


「あのとき、その男に自分がなるって、思ってた?」

「まあ、ちょっとな」

「ウソ!」

「ほんとに。おれはけっこう最初から、おまえのこと好きだったよ」

「ウ、ウソ……」


あれ?
またこれは、自爆タイムに突入する予感。