それでもなお、弟は言葉を続けた。
「たいして努力もしないで、欲しいもん全部手に入れて、いつもバカみてえに笑ってるだけの兄貴が、ガキのころから目ざわりでしょうがなかった。『似てる』って言われることが嫌でたまらなかった。どこも似てねえだろって思ってた。
おまえの近くにいると劣等感しか生まれない。いつも比べられてる気になる。なんでよりによってこんな完璧な男の弟なんかになっちまったんだって、もう何回も、思った」
でも、
と、不機嫌な声はきっぱり言った。
「尊敬して、感謝してるのが、自分だけだと思うなよ」
じれったそうに、兄よりも少し幼いネコ顔が、薄いくちびるを噛む。
「おまえはたぶん死ぬまでむかつく兄貴だけど、おれだって、おまえの歌でドラム叩くの、毎日すげえ、楽しいよ。だからこうやって傍にいるんだ。だからおまえと一緒に、おれは東京に来たんだ」
兄が泣いた。
結婚式でも泣かなかったのに、もうぼろぼろに。
弟は目を見張っていた。
でも、言ってやったぜ、という顔だ。
なぜか、勝ったような顔。
どうしていまそういう表情なの?
と、笑って聞きたかったけど、聞けなかった。
あたしも、泣いていたのだ。



