「ところでアオイちゃんは、こーんな仏頂面のどこがよかったのぉ?」
盛大に笑いながら言うお母さんに、ウルセェと、その仏頂面が答える。
「彰人と違って、寛人は扱いづらいったらしょうがないでしょう」
「そんな、むしろあたしのほうが、いつもいろいろとしてもらってばかりで……」
「いいのよいいのよ! ドンドンこき使ってやってよ、普段は自分のことでしか動かない男だからね」
なんか、意外、というか。
寛人くんのお母さんがこんなによくしゃべる人だとは思っていなかったな。
アキ先輩と、寛人くんと、お母さん、みんな同じ顔だけど、寛人くんだけぜんぜん違う感じがする。
「寛人ねえ、昔っから怒った顔が得意なんだけど、こう見えて、根はけっこういい子なのよ」
しみじみ、彼女は言った。
もっと、うんと昔、寛人くんが幼いころを思い返しているような瞳だった。
つられてあたしも想像するけど、ぜんぜんわからないや。
寛人くんはどんな子どもだったんだろう。
いつか、アルバムとか、ホームビデオとか、見せてもらえたらいいな。
「不器用なやつだけど、ウチのドラ息子をよろしくね。アオイちゃん」
「は……はい! こちらこそ、ふつつかものですが!」
ニコッと笑った顔の目元に、笑い皺が浮かんで、素敵なお母さんだなって思ったよ。
お父さんもずっとニコニコしていて、なんで半田家ではヒロトだけが仏頂面ボーイなんだろう、なんて思う。
まあ、だからこそ、放っておけないみたいなところもあるのだけど……。



