止まったはずの涙がぽろぽろとこぼれだした。


だって、その目が。表情が。指先が。

あたしのことを、好きだと言ってくれている。


全部、聞こえてきてしまう。


「ひ、寛人くんは……あたしのこと、好きなの……?」

「だからそう言ってるだろ」


ちょっと困ったふうに寛人くんが言った。

こいつの扱いどうしようって感じに、やっぱり少し面倒そうに、笑っている。


「う~~……うれしいよぉ……あたしも好きだよぉ……」

「わかったから、ウルセェから、泣くな」

「だって、ずっと言えなくて苦しかったよぉ……!」


子どもみたいに声を上げて泣いた。

この男の前で何度も泣いてる気がするけど、たぶんこれがはじめての、うれし涙。



「……ごめん」


やっと落ち着いてきたころ、寛人くんがぽつりと一言だけ謝った。


驚いた。

だってチョットしゅんとしているんだもの、あの、半田寛人がね。


スンスンと鼻が鳴る。

彼はちらりとコッチを向いて、それからまた、視線をななめ下に向けた。


「泣かせて、ごめん。好きだって、おれが言えなかったんだ。言うのが怖かった。おまえが離れていく気がして……肝心なこと、ずっと言えずにいた。ごめん」


ああ、寛人くんも、悩んでくれていたんだな、って。

あたしのことを考えて、苦しんでくれていたんだな、って。


その顔を見ているうちにじわじわ実感して、下腹のあたりがぐっと熱くなる。


大きな右手が少し迷って、

そのあとで、そっとあたしの目尻に触れた。


「なあ……泣くなよ」


この人のことが、いとおしくて仕方ない。


頬に右手のぬくもりを感じながら、思わずその左手を握った。


とても冷たい手だね。

でも、すごくあったかい。


そうして、手をつないだまま、何度もくちびるを合わせた。


視界の端で、夜空の黒を、光のオレンジがゆらゆら泳いでいて、切ないくらいにきれいだった。