「……子ども、100%無理だって言われたわけじゃないんだろ」
今度は小さなシルエットが縦に動いた。
「じゃあ、諦めない。俺は、季沙も、季沙との子どもも、諦めない、絶対」
いつか寛人くんが言っていた、『洸介さんって、かっこいいだろ』って、あのせりふ。
あのときはイッタイゼンタイ、なにを言わんとしているのか見当もつかなかったけど、いまになってやっとわかってしまった。
洸介先輩はたしかに無口で寡黙だけど、そんじょそこらの男とは比べものにならないくらい、気持ちが強い人なんだ。
ああ、よかった。
ふたりがお別れする道を選ばなくて、本当に良かった。
あたしなんかは部外者も甚だしいのに、いま、すごくほっとしている。
でも、それはあたしだけじゃなく、ここにいる全員が感じているみたいで、いつのまにかあのお葬式みたいな空気は病室から消え去っていた。
「いろいろ落ち着いたら、俺たちも結婚しよう。そしたら一緒に頑張ろう、季沙」
「うん、こうちゃん……。ごめんなさい、ありがとう……、大好き」
「うん。でも俺のほうが好き」
歯の浮くような会話、スゴイな、いつもけっこうこんな感じなのかな……と思い、ついつい隣にいる俊明さんを見上げると、あたしに気づくなり、その上品なお顔が少しだけ困ったように微笑んだ。
なるほどそうか、いつもこんな調子なんだな、
そりゃ、新奈のつけ入る隙もなかったワケだ。



