「……みちるさん、季沙に会わせて」
洸介先輩が言った。
みちるさんは首を横に振った。
「ダメ。いまは会わないであげて。あたしが全部説明するから……」
「説明はいらないから、いますぐ季沙に会わせて」
懇願するような声。
「……会わせて。いま会わないと、話さないと、絶対にダメだ」
その言葉に、みちるさんは泣きながら、とうとう頷いたのだった。
傍にいてあげてって。
洸介くんじゃないとダメだって。
それでも、病室で点滴を受けていた季沙さんは、洸介先輩の姿を見るなり、壊れるように泣いた。
いつもふんわり、天使のような笑顔を浮かべているかわいらしい顔が、ぐちゃぐちゃに乱れている。
とても見ていられなかった。
いつしかあたしもボロボロに泣いていた。
「季沙」
「いやだ、いやだこうちゃん、来ないで、いやだ……」
「季沙……、季沙、大丈夫だから」
長い脚を折り、洸介先輩がベッドの傍らにしゃがみ込む。
そうして季沙さんの両腕を撫でた。
それは、優しくなだめるみたいな手つきだったし、いまにも逃げてしまいそうな彼女をつかまえておくためにも見えた。
「なにが、大丈夫なの……? 産めないんだよ? わたしは、こうちゃんの赤ちゃんを、産めないんだよ……?」
季沙さんが、消え入りそうなほどに小さく、それでも絶叫している。
「わたし……こうちゃんと、別れる。別れる……!」
そして、正直なところ女として当然だとも思える核心を、彼女はついに口にしたのだった。



