フキゲン・ハートビート



「きょう、一緒にゴハン食べてたら季沙が倒れたの、急に。痛みで気を失ったんだ。それくらいずっとひどかったらしくて、でもあの子、病院にはかかってなかったみたいでね……」


病気って、いったいなんだろう?

どんななんだろう?

まさか命にかかわるようなのじゃないよね?


産婦人科にかかるような病気、ひとつも知らなくて、

それどころかあたしは生理痛すらまったくないから、ぜんぜん見当もつかなくて。


季沙さんのあのふんわりした優しい笑顔が頭に浮かんで、そうしたら、こわくてしょうがなくなってしまった。



「子宮内膜症、らしい……」


シキュウナイマクショウ。
シキュウナイマクショウ。

漢字すら浮かばない病名が、頭のなかをぐるぐるまわる。


「子どもが、望めないかもしれないんだって。発覚と治療が遅れたぶん、可能性はすごく低いから、諦めておいたほうがいいって、先生が」


言いながら、みちるさんはこらえきれないように泣いた。


その肩をアキ先輩が抱く。

普段は常に笑顔でいる彼もまた、やりきれないような顔をしている。



子どもが、産めないかもしれない。

季沙さんは、お母さんになれないのかもしれない。

洸介先輩との赤ちゃんを、一生、望めないかもしれないんだ。


それはたぶん、死刑宣告よりもずっと恐ろしい宣告だ。

だって、好きな人との赤ちゃんを授かれないなんて、女としての幸せを奪われたのと同じだと思う。

みちるさんもそれをわかっているから、泣いているのだと思う。


あたしも泣きそうだ。

季沙さんのいまの気持ち、とてもじゃないけど、想像すらできない。