イヤホンをしたまま、半田くんが薄いくちびるを動かしはじめる。

そして、ひとりごとみたいな音量で、言ったのだった。


「おまえ、おれが“芸能人”になったとたん連絡先知りたがるとか、やっぱいい性格してるよな」


なんだ、それ。

いい性格してんのは、どっちだよ。
せっかく同級生と再会したのに連絡先も教えてくれないとか、どんだけひねくれてんだよ。


……でも、ひょっとしたら違うのかな。


半田くんにとってあたしは、
あたしたちは、

“同級生”でもなんでもないのかも。


あのころ半田くんはいつもひとりでいて、あたしたちはそれを腫れものみたいに遠巻きに見ていただけで。

半田くんにとってはあたしたちみんな、“友達”や“同級生”じゃなく、ただの“群衆”だったのかもしれない。


その仏頂面を見下ろしながらチョットだけ、ごめんねって思った。


あのころ、よく知りもしないまま嫌ってて、ごめんね。

声をかけようともしないで、ごめんね。


「……半田くん」


もういちどイヤホンを抜く。

いよいよ本気で怒った表情になった半田くんの隣に腰かけて、その顔をじっと見つめた。