「……寛人くんって、芸能人じゃん」


こっちめがけて飛んできた、するどくとがった言葉をかわすように、あたしはチョット笑って言った。


「は?」

「プロのミュージシャンだよね。当たり前みたいにCD出しちゃうくらいの場所にいる、アーティストだよね」

「……なんだよ、いきなり」

「いやぁ。よくよく考えてみたら、それってけっこうメンドイよなーって思って」


すらすらぺらぺらしゃべる自分に、感心を通り越して、もはや恐怖さえ覚える。


めずらしく、彼は戸惑ったように瞳を揺らした。

その薄茶色に映るあたしは、いま、どんな顔をしているだろう。


「それに、ソッチだってあたしのことウゼェとか言うじゃん」


そこで黙るなよ。

でも、図星だもんね。

ズルイこと言って、ごめんね。


「寛人くん。いままでウザくしてごめん。それにいろいろ迷惑かけまくったと思う。それも、スッゴクごめん。また新奈とライブでも見に行くから。いちファンとして、行くから。あとCDも買うよ」


自分で言っていて、あ、これって別れの言葉みたいだなあ、と思った。


「頑張ってね。バンド。頑張って。あたしもCAになるね。頑張ろう」


どんどん涙声になっていくのが嫌で、咄嗟に、まわれ右。

ああ、不自然だったかもしれない、いまのは、さすがに。


寛人くんはなおも黙ったままだったけど、刺すような視線だけは背中越しに感じていた。