我に返らせてくれたのは、アキ先輩のちょっと呆れた感じの笑い声だった。
「はーいはい。もう終電行くから続きは電車でやれよ、キミタチ」
両の手でぽすんとあたしたちの頭を撫でて笑った、輝くほどのきれいな顔がすぐ上にあって、いろんな意味で気を失いそうになる。
サイアクだ。
いまさらだけどサイアクだ。
だって、サイアクなところをアキ先輩に見られてしまった。
……ああ、どれもこれも、半田寛人のせい。
「ふたり、マジで仲良しなのな? お兄ちゃん知らなかったワ~」
「死ねクソ兄貴」
うっとうしそうにアキ先輩の手を払った半田くんは、わざとらしい舌打ちを残したかと思えば、そのまま駅のほうへ歩きはじめてしまった。
むかむかしながらその背中を眺めていると、ななめ上のほうで、息を吐くような笑い声が聞こえた。お兄ちゃん、だ。
「いやあ、びっくりした」
「え……」
「あいつオレらの前だとあそこまで感情的にならねえの。あんなガキみてーな顔、久しぶりに見たワ。小学生かよってな! ごめんな、アオイちゃん、ウチの愚弟が失礼なこと言いまくったな」
そんな、アキ先輩が謝る必要なんかひとつもないのに。
この人はまぎれもなく半田くんのお兄さんなんだって、もうずいぶん前からよく知っていたようなことなのに、おかしなところで実感してしまう。
まだお腹のあたりはむかむかするけど、この太陽みたいな笑顔を見ていたら、ちょっとだけ気分が軽くなったような気がする。
アキ先輩は相変わらずスゴイ人だ。
「さて、と! オレらも行こうぜ」
ああ、この眩しさのうちほんの1%だけでも、弟のほうに遺伝していたらどんなによかったか。



