「んー。まあ、それもわりとけっこうアリじゃね?」
いきなり、アキ先輩が言った。
そうしてニヤッと、人の悪い笑みを浮かべた。
「おまえ、自分のゲームにばっか金かけてないでさ、たまには世のため人のため、有効活用しようぜ」
半田くんの肩に腕をまわして笑うアキ先輩は、バンドのボーカルでなく、“お兄ちゃん”の顔をしている。
「は? 絶対やだ。なんでおれが……」
「――あ……あたしだって嫌だよ! どうしてよりによって半田くんなんかに借りをつくらなきゃいけないんですかっ」
たまたま友達がチケットを余らせていて、たまたま来たライブで、たまたま定期券を落として。
それで、たまたま、あの半田寛人に借りをつくって?
途中までサイコーのシナリオだと思っていたのに、
サイアクなオチじゃないか!
「……なんか、そう言われると腹立つ」
ふと、半田くんがとても低い声を出した。
「思い出した。真島蒼依って中学のころからすげえヤなやつだったんだよな」
「……はあ!?」
なんだって?
いま、いちばん言われたくないやつにいちばん言われたくないことを言われたような気がするのだが!
「昔からそうだっただろ。おれのこと毛嫌いしてただろ。面倒くせえやつだなって思ってた」
「ど……どっちが! いっっっつも不機嫌な顔して他人を毛嫌いして面倒くさかったのは半田くんのほうでしょうが!」
「は? 人聞き悪いこと言ってんじゃねーよ」
「そっちもな!!」
そこからはもう水かけ論。
お互いの性格の悪さをぎゃあぎゃあ言いあい、あることないこと言いまくり、あたしたちはいつしか肩で息をしていた。
……そう、アキ先輩をはじめとする、あまいたまごやきの皆さまがそこにいることもすっかり忘れて。



