フキゲン・ハートビート



半田くんも不機嫌だったけど、そんな彼に、アキ先輩も少なからず腹を立てているようだった。

俊明さんはそんなふたりにやれやれといった感じで、
洸介先輩は眠たそうにしている。


なんというか、端的に言えば、とても雰囲気が悪い。


……どうしよう。あたしのせいじゃん、これ。


「あの……ホント大丈夫なんで! 終電逃しちゃったら意味ないし、もう新しく買い直すことにします」

「ほら。こいつもそう言ってんだし」


半田くんの冷めた目がちらりとあたしを見た。


べつにいまのはあなたに言ったわけじゃないですけどね。
あまりにもアキ先輩が優しいから言っているだけであって。

そこらへん、勘違いしないでほしい。


「なら、買ってやれば」


ふと、ギタリストの低い声が全員の真ん中に落ちた。

果てしなく眠たそうな、いやもうすでに眠りに落ちているのかもしれない、とろんとした声。

それでもたしかな存在感のある、不思議な響きだった。


「は?」

「ヒロが新しいの買ってやれば」

「いやマジで、なに言ってんすか、洸介さん……」

「これから定期ないと困るだろうし」


おなじみのポーカーフェイスのまま言うから、本気なのか冗談なのかわからない。


「……ねむ」


そうこぼして大きなあくびをした洸介先輩に、隣にいるカノジョさんが本当に困った顔をした。