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  ☔︎


9月も下旬に入ろうとしているのにどうしてこうも暑いんだ。


しっとり汗ばむ肌に、心のなかで舌打ちをして、食欲の秋に思いをはせた。

食欲を差し引いたとしても、あたしは秋がいちばん好き。


「蒼依、聞いて! 大変!」


新学期しょっぱなから新奈は元気だなあ。

あたしは眠いよ。
きのうもラストまでバイトだったし。


「洸介とデートすることになってんけど!」

「へえ~スゴイね」

「反応うっす!」


新奈の、薄い水色のブラウスがひらひら揺れるのを視界の端でとらえながら、


「なにがあったの?」


と仕方なく尋ねると、待ってましたと言わんばかりにたちまち彼女の顔がゆるんだ。


「あんなぁ、来月、季沙さんの誕生日があるねんて。そのプレゼントをいっしょに選びに行くねん。メッチャ立候補したしな、もう~!」


いやいや、そのようにうれしそうにしていらっしゃるところ、悪いのだけど。


「なにそれ、脈ナシすぎる……」

「うん。そこは考えたら負けやと思ってる」


なにが悲しくて、好きな人の恋人の誕生日プレゼントをいっしょに選びに行かなければならないのか。


新奈は本当に鋼のメンタルをしていると思う。


それとも、洸介先輩と季沙さんのあいだに入ることは、もう諦めているのかもしれない。

諦めたうえで、そういう片想いを楽しんでいるのかもしれない。


「……あんなぁ。そんとき、ウチ、告白しよかなー思ってて」


それでも、そうこぼした新奈の顔は少し切なそうにゆがんでいたので、こっちまで胸がぎゅっとなった。