「――ユカ」



ふいに、うしろから低い声が落ちてきた。

病人の声だ。


ふり返る勇気はなかったけど、ものすごく不機嫌そうな顔をしているということなら、たやすく想像できた。


「ヒロちゃんっ」

「なんで来てんの?」

「だってぇ、朝から何回も電話してるのにヒロちゃん出ないしぃ、トッシーに聞いたらきょうはオフだって言うから……」


ああ、目覚めるときに感じたあの振動音は、ユカっぺからの着信だったのかも。


国民的アイドルからの着信をフル無視かます半田寛人、

いくら病人だったとはいえかけ直しもしない半田寛人、

いつか彼女のファンに刺されてしまえ。


「……まあいいけど、手当たり次第にとりあえず絡むのやめろ。季沙さんに同じようなことしたとき、洸介さんに怒られて、おまえ痛い目見ただろ」

「……はぁい。ごめんなさぁい」