「定期券、落としたんだと。中3んときのクラスメート」
緊張でそれどころじゃないあたしのかわりに半田くんが説明してくれる。もちろん、かなり面倒くさそうな口調で。
「え、寛人の? てことはオレの後輩? うわーすげー! おい洸介、後輩が来てる!」
アキ先輩の声のトーンがいっきに上がった。
そうしたら、次々にぞろぞろと人がやって来た。
ああ、あまいたまごやきの人たちだ。
どうしよう。早く穴を掘らないと。
「名前は? なんつーの?」
それでもニコニコ・キラキラと顔を覗きこんでくるアキ先輩に、勝てる術などあたしが持っているはずもなく。
「真島蒼依……です」
「アオイちゃんな、よろしく! ライブ来てくれてサンキュー!」
本当にあのころからなにひとつ変わっていないんだな。
まぶしい笑顔、優しい人柄。
全部、まったく同じだ。
単に同じ中学に通っていた後輩というだけなのに、まるで昔の友達に会ったかのようにうれしそうに笑ってくれる。
どうしても胸が高鳴ってしまうのは、あたしの心がどうこうでなく、アキ先輩の天性の才能のせい。
「洸介も挨拶しとけよ? 後輩だとよー」
「……瀬名です、どうも。来てくれてありがとう」
……洸介先輩って本当にこんな感じの人なのか。
どこまでも寡黙で、無気力で。
アキ先輩に負けないくらいきれいな顔をしているけど、やっぱりなんだかちょっと近寄りがたい感じだ。
そして、当たり前みたいにその隣になじんでいる女性には、なんとなく見覚えがあった。
たぶん……いや、絶対にあの幼なじみさんだ。
新奈が言っていた『同棲しているらしいカノジョ』というのは、あのころから傍にいた幼なじみさんできっと間違いない。
それにしても、ライブのあとに堂々と連れて帰るって、なんだかすごいな。
思わずじっと見てしまっていたら、ふいに目が合って、彼女は困ったように小さく微笑んだのだった。



