玄関でパンプスを履きながら、もうこの部屋に来ることはないのかな、なんて思った。
だって、そうだよ。
いつだって、あたしからだった。
定期的にゴハンつくろうかって言ったのも。
きのうの夜、ゴハンつくりに行くよって言ったのも。
看病を買って出たのも。
ついでに、ゴキブリの退治を申しこんだときだって。
全部、あたしからじゃないかよ。
あいつからあたしになんか言ってきたことなんか、一度だってなかったじゃん。
心がぽきりと折れる音がした。
とにかく半田寛人と仲良くなりたくて、なんか知らないけど、がんばっていた。
でももうダメ。
がんばれない。
だってウゼェって言われたもん。
本気の拒絶を見せられたもん。
もやもやする。
ずきずきする。
結局あたしなんかその程度なんだな。
どう足掻いたって半田寛人のトモダチにはなれない。
あたしはただの“群衆”で、中学時代の嫌な思い出なんだ。
知っていた。



