フキゲン・ハートビート



「あと、さっきの話だけど、おれふつうにノーマルだから。でも女に生まれてたら、けっこうマジで洸介さんに恋してたかもな」


笑って、食べかけだった豚肉を彼は口に放りこんだ。


寛人くんはきっとカッコイイ存在が好きなんだ。

洸介先輩に強烈な憧れを持っているのも、かつてみちるさんを好きになったのも、そのせいだ。


「いいなあ。あたしも、そうやって真剣に向きあえるなにかに、出会いたかったな」


ひとりごとのつもりでぽろりとこぼした。


「大学出たらやりたいこととか、おまえはねえの?」


なのに、そんなことを聞いてくるもんだから、面食らってしまった。


”やりたいこと”。

というか、“将来の夢”みたいなものなら、実は幼稚園のころから変わっていないんだ。


でもそれを口にするのはチョット恥ずかしすぎる。

どうせバカにされるんだろうし……。


「なにになんの?」


あたしのなんともいえない表情からなにかを感じとったのか、投げかけられたのは追いうちのような言葉。

もう、変なところで敏感にならなくていいし、めずらしく興味も持たなくていいのに。


「……CA」


本当は言いたくなかったはずなのに、閉まりきっていた喉が、気付けば震えていた。

秘密みたいな話を打ち明けてくれたカッコイイ寛人くんに、もしかしたらあたしも触発されたのかもしれない。


「え?」

「キャビンアテンダント! 客室乗務員! 飛行機の!」


ああ、きっとこれから存分にバカにされるんだろう。