フキゲン・ハートビート



気付けばもう出待ちのコたちすらいなくなっていた。

ずいぶん長いこと探していたんだな。

定期を見つけたとしても、終電が行ってしまったら、元も子もないよ。


「……なに、誰?」


たぶん『半田くん』と呼ばれたことに不信感を抱いたのだろう。

このひとたち、ファンにはだいたい名前やニックネームで呼ばれているみたいだから。


「え~と、その」

「知り合い?」


眉間に深い皺が刻まれる。

やっぱり感じ悪いよ、こいつ。


「えっと、中学のとき……同じクラスで」

「中学?」

「3年のとき、ほら……いっしょに美化委員やってた……」

「美化? ……あー、なんだっけ、ミシマ?」

「まっ、真島(ましま)! 真島蒼依!」

「ふうん。なんとなく記憶にあるかも」


あのころよりほんの少しだけ背の高くなった半田くんは、あたしの顔をまじまじ見つめて、ちょっと首をかしげた。


「……こんな顔だった?」

「そ、そりゃ中学のころに比べたら変わってるかもしれないけど!」


いちおう化粧なんかも施しておりますし!


「へえ。びっくりした」


びっくりしたのはこっちのほうだ。

だってまさか、なんとなくでも、あの半田寛人があたしを覚えているなんて、夢にも思わないよ。


彼のまとう空気は当時よりどこかやわらかくなっていて、大人になったんだな、と思わずにいられなかった。

当たり前か。
もう、あれから5年もたつんだもんね。