寛人くんは黙ってビールを飲んでいた。

やがて飲み干してしまっても、立ち上がろうとしなかった。


あたしのコップもすでに空っぽだ。

ふたりして空虚なコップを持て余しながら、それでもずっと隣どうしで座っていた。

おなかすいたなあ、とも思ったけど、ここを離れることが、なんとなく嫌だった。


深い沈黙が落ちる。

どうして寛人くんはどこかへ行こうとしないんだろう。


どうしていつも、みんなから少し離れたところにいるんだろう。


「なんかさあ。いっつも助けられてるよねえ、あたし。落とした定期から始まったと思ってたけど、中学のころからだったとはね!」


わざとおどけて言ったのに、きれいな横顔は横顔のまま、フンと鼻を鳴らして笑うだけ。


うーん。会話が続かない。

最近はチョット話せるようになってきたと思ってたんだけどな。


「……結婚、おめでたいねえ」


また、ダンマリか。


なんか、元気ないのかな。

本当に体調が悪いんだろうか。


「身近な人が結婚するのってはじめてだから、なんかそわそわする。あたしひとりっ子だからさ、うらやましいよ。きょうだいの結婚ってトクベツな感じするじゃん?」

「そんなことねーよ。どうせアレは式までまたうるせーんだろうし、めんどう」


お兄ちゃんの結婚報告に、どうしてそんなに嫌そうな顔をするの。