フキゲン・ハートビート



「ところでさー」


その不機嫌なお顔をどうにかするために話題を変えてみても、咳ばらいをしてみても、この男の前ではあまり効果はないみたい。


「寛人くんこそ、ちゃんと食べてるの? きょうも飲んでばっかりでしょう」

「食べてる。……もらったやつは、ちゃんと全部食った」

「あー! あれねえ、もって3日くらいなんだから。季沙さんに聞いたけど、あれだけでしばらく食いつなごうなんてバカだからね。あれぐらいはせめて3日で食べてもらわないと」


あ、また目を逸らしやがった。

さてはずいぶん時間かけて食べたな。


「夏なんだから、日持ちもよくないんだよ。冷蔵庫はそんなに万能じゃないよ」

「……わかってる」

「なら早く消費してよ。食材がもったいないじゃんか」

「でも、おまえのメシって、うまいから」

「は?」


は?


「……すぐ食っちゃうのやだなって、なんか、思って」

「は?」


ハしか出てこない。

いつぞやの半田寛人のように。


だって、いま、なんて言った?


「うまいもんがなくなる瞬間って、なんかイヤだろ。わかる?」


それはなんとなくわかるけど。

でも、そうじゃなくてさ。


心臓のあたりがもぞもぞした。

よりにもよってこんなやつに、なんかおかしな感じに褒められて、居心地悪いったらしょうがないよ。


熱でもあるのかと思う。


ていうか、なんと答えたらいいのかわからない。

どんな顔をしたらいいの。

褒められるのって、あまり慣れていないんだ。