フキゲン・ハートビート



ライブ後の会場というのは、まさに祭りのあとの静けさという感じだった。


誰もいない。

出待ちをしているのであろう女の子たちがチラホラいたけれど、騒いでいるわけでもないし、やっぱりなんだかさみしい感じがした。


いや、いまはそれどころじゃないんだった。


定期。

どこいった、定期。


「あーもうサイッアク……!」


踏まれていたりして使いものにならなくなっていたらどうしよう。


でもきちんと管理していなかったあたしが悪い。

人混みに行くとわかっていたのだから、もっとしっかり鞄に入れればよかったんだ。


本当にいつだって後悔は先に立ってくれない。



「――わっ……」


もうどれくらい探していたのだろう。

ふと、ドン、となにかにぶつかった。


暗闇のなか、下を向いたまま夢中で探していたから、人が迫ってきているなんて知らなかった。

すみません、あたしの不注意で。


目の前にある大きな影はゆらりと揺れて、「いて」と小さくこぼした。


「すみませ……」

「こんなところでなにしてんの? もうライブ終わったけど」


低い声。男の人だ。


「いや、その……ちょっと、落としものをしてしまいまして」

「は? やめといたら? どうせ見つかんねーから」


そんなの探してみなきゃわからないじゃん。
ハナから諦めてしまったら見つかるものも見つからないよ。

むっとして、顔を上げて、すぐに、はっとした。



「――半田、くん?」



どうしてさっきまでステージにいたやつが、
もう会場の外にいるのだろう?