フキゲン・ハートビート



「そういえば、あいつどう?」


ビールをひと口飲んだあと、寛人くんがまた口を開いた。


「あいつって?」

「こないだの男だよ。おまえんちで会った変な男、いただろ」

「あー……大和のことかぁ」


すっかり忘れていた。
そういえばそんなやつもいたなって感じ。


あれからしばらくはメッセージがきたりもしていたけど、すぐにブロックしたし、いまはまったく音沙汰なしだ。

家に来たりもしない。


「うん、もうゼンッゼン大丈夫。寛人くんのおかげだと思う、ありがとう」

「防犯ブザーとかはちゃんと持ってんの?」

「あ、ブザーはあれからすぐ買ったんだよ。まだ未開封だけど……」


未開封どころか、もはやどこにしまってあるかもわからないけど。


「まったく意味ないだろ、それ」


寛人くんがあきれたように言った。


「ちゃんと持ち歩いとけよ」


いいな、
と、こないだとまったく同じ口調で言われた。

それがチョットおかしくて笑ってしまうと、彼はますます怒った顔をした。


帰ったら、防犯ブザー、探そう。

そいでちゃんと身につけよう。