フキゲン・ハートビート



ふと、目の前に大きな影が落ちた。

さっきまで、俊明さんと新奈といっしょにいた洸介先輩が、いつのまにかこっちまでやって来ていた。


「季沙」

「うあ、こうちゃん!」

「邪魔じゃなかった?」

「うん、大丈夫だよ」


とても落ち着いた、低くこもる声。

季沙さんの名前を呼んだその音はあまりにも優しくて、隣にいるあたしのほうがどぎまぎしてしまった。


「どうしたの?」

「アキが呼んでる。話があるって」


当たり前に洸介先輩の左側におさまる季沙さんと、小さな彼女を包みこむような雰囲気の洸介先輩。

やっぱりどこからどう見ても完璧に絵になる。


洸介先輩ってチョットこわい、近寄りがたい印象だったけど、こうして間近で見るとぜんぜん違うんだ。


すごく優しい顔をする人だ。

あったかい瞳を持つ人だ。


それともこれは、季沙さんといっしょにいるからかな。


座ったままリンゴジュースを喉に流しこんで、ぼんやり素敵すぎるふたりを見上げていると、ふいにずいぶん上のほうにあるふたつの瞳と目が合った。

ちょっとどきっとした。


洸介先輩って、実はとても整った顔立ちをしている。


「蒼依も」

「え!?」


なんだって!?


「来て。みんな集合」

「あ……え、ハイっ!」


ちょっと待ってくれ、いま、ふつうに呼び捨てにされたよ。

びっくりしたよ。

この人との距離の測り方が一瞬でわからなくなったよ。


瀬名洸介、やっぱりチョットこわいぞ。

いろんな意味で。