フキゲン・ハートビート



絶対にあしたは右肩が筋肉痛のはず。

新奈の話を聞きながらぼんやりそう思ったけど、ぜんぜんイヤな痛みじゃないのが、なんだか不思議。


「なあ、どうやった? 蒼依も楽しかった?」

「うん、楽しかったよ。たまにはこういうのもいいね」

「ホンマ!? ほなまたいっしょに来よなぁ!」

「うん、また誘って~」


新奈が目を輝かせながらあたしの腕をぶんぶん振りまわす。
疲れた体ではすぐに酔ってしまいそうだ。


あーあ、終わってしまえば早く帰りたい。
帰ったらすぐにお風呂に入って寝よう。

かっこいいアキ先輩も見られたし、今夜は素敵な夢が見られそうだな……。


「……んっ!?」


改札をくぐろうと鞄をゴソゴソ漁りながら、覚えた最低の違和感。


「なに、どうしたん?」

「て、定期がない……やばい……嘘でしょ……」


信じられない。
まだついこないだ、4月の頭に買ったばかりなのに。


ない。鞄のどこを探しても。ポケットにも入っていない。財布のなかにも、なかった。

ここに来るときはあったのに。


もしかしなくても絶対、あの人混みでどこかに落としてしまったんだ。


「ちょ、ちょっと探してくる!」

「え、蒼依!?」

「遅くなっちゃうし、新奈は先に帰ってて!」


本当にサイアクだ。

どうか、どうか無事でいて、
あたしの2万5千円。