フキゲン・ハートビート



新奈はやはりギタリストに夢中なようだった。


洸介先輩、中学のころからあんまり変わっていないな。

当時がどんなだったかなんて正直もうほとんど覚えていないけど、印象的なあの無気力そうな瞳はずっと健在だ。


ふと左に視線を移すと、否応なしにアキ先輩が視界に飛びこんでくる。

……ああ、そうだ。
昔から、こんな人だった。

あのころと微塵も変わらない、キラキラしたオーラを全身にまとって、圧倒的な存在感を放って、涼しい顔で主役をもぎ取っていく。


バンドのボーカルって、歌唱力だけでは務まらないような気がする。

もちろんアキ先輩は歌もすごく上手なんだけど。


ライトを浴びて輝く金色の髪が、
とても……とても、まぶしくて。


ただ、アキ先輩を見ているとどうしても視界に入るのが、すぐうしろにいるドラマー。


なんだ、半田くんも全然変わっていないや。

相変わらずむすっとした顔で黙々とビートを刻んでいる。


時たまアキ先輩の背中を見上げてまぶしそうに目を細めるのは、ライトに目がくらんでいるからかな。

それとも、彼もあたしたちと同じに、アキ先輩をまぶしく思っているのかもしれない。


あまりにも真剣な顔をしてドラムを叩いているものだから、思わずぼうっと見入ってしまった。


よくあんなに激しく腕が動くものだよ。

体の線は細いくせにこんなに力強いビートを生みだせるなんて、ちょっと信じられないよ。


「こんばんはー!」


最初に4曲たたみかけると、アキ先輩がキラキラな笑顔でそう言った。