会場は人でごった返していた。
いちおう整理券はあるものの、けっこう無法地帯で、ぶっちゃけ割りこみたい放題だ。
ドームやアリーナでやればいいのに。
でも新奈いわく、そんなにキャパがあるとさすがにチケットが捌けないらしい。
そんなもんなのか。簡単ではないんだな。
「はーあ。このなかに洸介の彼女もおんねんなー」
「もう新奈ってば、わかったって」
ぎゅうぎゅうに押されながらもまだそんなことを言っている新奈は、相当ライブ慣れしているようだった。
うまいこと人と人のあいだに入ったかと思えば、自分は洸介先輩の前にいられるよう、するりと上手に移動して。
だからあたしもつられて会場の右のほうに追いやられた。
ここじゃアキ先輩があまりよく見えない。
そのかわりドラムはよく見えそうなんだから、なんだかなあ。
半田くんは成長しているんだろうか。
中学のころからかなり大人びた雰囲気があったから、ひょっとしたらやっと年相応になったという感じかな。
「蒼依! 始まるで!」
「いよいよだね」
お洒落な洋楽のSEが鳴りやみ、いきなり会場がおかしな静寂に包まれる。
真っ暗なステージに足音が響いたら、誰かが悲鳴のような声を上げた。
――瞬間、まるで、別世界。
「洸介ー!!」
隣で新奈が声と両腕を上げる。
光に包まれるステージ、耳を殴る爆音。
そうだ。
ライブって、こんな感じだ。



