とにかくいろんな人の顔を頭に浮かべた。
どっちにしろひとりで闘える気なんかしなかったから、いまは誰でもいいので助っ人が欲しかった。
新奈……は、3駅も先に住んでいるし、そもそも虫全般が苦手だと言っていたっけな。ザ・女子だものね。
ああ、もう。
こういうときに頼れそうな男友達なんかはひとりも思い浮かばないよ。
というか、半年前、大和にあんな捨てられ方さえしていなければ、気兼ねなく連絡できる彼氏のひとりやふたりくらい、いまごろサクッと作れていたかもしれないのに。
あまりの絶望感に情けなく涙がこぼれそうになったとき、ふと、いきなり浮かぶ顔があった。
――半田寛人、は?
仮にも男子だし、虫はそれなりに大丈夫だと思う。
いや、大丈夫であってほしい。
それにけっこう近くに住んでいる。
徒歩で30分のところ。
こんなことで助けを求めるのは恥ずかしいし、本当に申し訳ないけど、もうすでにアレなところはいっぱい見せてしまったわけだし。
さすがに今回のこれに関しては、あまりの迷惑さに完膚なきまでに嫌われてしまうかもしれないけど、もう、藁にもすがる思い。
背に腹は代えられん。
スマホも財布もないいま、頼みの綱はあの男だけなんだ。
「か、考えてる暇などない……」
カコンと、あたしの心とは裏腹な軽い音を鳴らして、ダークブラウンのサボが地面を蹴った。
ごめん、寛人くん、大迷惑野郎なのは百も承知。
でも絶体絶命の大ピンチなんだ。
どうか寛人くんがゴキを平気でありますように。
どうか退治に来てくれますように。
どうか、どうか、嫌われませんように。
心のなかで何度も唱えて、ちょっと道に迷いながら、あの不機嫌顔のもとへ急いだ。



