フキゲン・ハートビート



「ちょ、待って待って待って、むりむりむり、マジでっ、無理!」


ヤバイ。

実は生まれてはじめて見たけど、アレはマジでヤバイ。


キモイということは各方面から聞いていたよ。

でもちょっと、想像のはるか上だよ。


生理的に無理という言葉、きっとこういうときに使うんだ。


キモすぎる。

ヤバイ。


これは……ヤバイ!


「ちょっとホントやだっ……」


なぜかコッチにカサカサとやって来たGに、もう大パニック。

なんで向かって来るんだよ、ふざけんなよ、こちとら人間様だぞ!


完全に無意識のうちだった。

自分でもわけのわからないうちに、気づいたら家を飛び出していた。

正直、チョット涙目だったと思う。


……でも、

鍵も持っていない。
財布も持っていない。
スマホも持っていない。

しかも、足元はてきとうすぎるサボ。

つくった料理はすでに全部冷蔵庫に入れていて、そこにヤツが侵入することはないだろうというのだけが、せめてもの幸いだ。


……ああ、どうしよう。


スリッパではたく?
殺虫剤で闘う?

いや、でもそれってもれなく接近戦になるよね?

ヤツの半径2メートル以内に入れる気がしないのだが。


というか、このドアのむこう側にあの黒いモノが存在しているのを想像するだけで、もう足がすくんで動けない。


「ど、どうしよう……」


手元にスマホもないし、誰かに連絡することさえできないなんて。

もう意を決してドアを開け放ち、闘うしかないのか。


……いや、たぶん死んでも、無理。