俺はバッグから台本を取り出した。梶原に渡す。

「はい、梶原」

 それを受け取って、パラパラとめくった彼女は、パタン!とすぐに閉じた。

「ハイっ、雪姫おっけいですっ!」

 元気よく片手を上げる梶原に、俺は『キーワード』を囁いた。


「シーン22、スタート!」


 その瞬間、梶原の空気がすっと変わる。


「『先輩、私』」


 両手を胸元で組んで、潤んだ瞳で上目遣いに見上げて。
 上気した頬が、濡れた唇が、妙に艶めかしい。


「『先輩のことが、好き』」


「「「ーーー!!!」」」



 男三人が、ビールを盛大に吹いた。
 うわ、きったねえ!

 でも俺は耐性があるからともかく、これをまともにやられたら、クる。

 真野社長と朔は真っ赤な顔をして。
 城ノ内副社長も珍しく、目を見開いて口元に手を当てて、赤い顔をしているような。


「こ、これって」

「梶原すげーんスよ。台本見て一発で覚えて即興で演技できんの。酔っぱらってるとき限定なんですけどね」


 そう。
 惜しむらくは、これがシラフだと全くできないってとこ。できてりゃ大女優になれんのになあ。
 しかもなんか妙に妖しいつうか、エロいっつうか。普段どこに隠してんだよ、その色気。
 青春ドラマの台本なのに、一気に深夜テイストだぞ。


 城ノ内副社長がボソッと呟いた。

「真野、AVの台本よこせ。いや昼ドラでもいい。今すぐ」
「城ノ内っ!頼むから家でやって!心臓に悪い!」
「おい星野、今のもうワンテイク。ムービー撮るから」
「城ノ内さん!頼むから落ち着いて!」
「あ、もう寝ちゃいましたね。本番一発なんですよこれ」


 男どもの動揺なんてどこ吹く風で。
 うちの白雪姫サマはすやすやと、旦那様である城ノ内副社長の膝で眠っていましたとさ。



 後日。

「ねぇ、最近なんだか城ノ内副社長がやたら私に呑ませたがるんだけど。私なんかした?」
「いやーなんでだろーねー?俺知ーらない」



~fin