「先生、何言って…」
アオイは否定的な言葉を口にするが、センスイはまったく聞き入れる様子がない。
「厄介なのは神剣ですが…私が見たところキュリオ殿と力の差はほとんどありません」
「…久しぶりに楽しい夜になりそうです」
スッと細められたセンスイの瞳はキュリオに対する憎悪のようなものが感じられる。窓辺から差し込む月の光が彼の顔に影を落とし…残酷なまでの美しさが余計に恐怖を煽るのだった―――。
「…お父様とまた戦うのですか…?」
「…えぇ、いつの時代も強い者がすべてを手に入れる…」
「優しさだけでは生き残れないのですよ?アオイさん」
"…貴方のそういう優しさが…彼女と、とてもよく似ているんです…"
そう呟いたセンスイの言葉を思い出し、隠された何かをようやくつかみ始めたアオイ。
「それって…」
言いかけたアオイが彼の傍に歩み寄ると…
―――ドォオオンッッ!!
「きゃぁっ!!」
耳を劈(つんざ)くような爆音とともに学園全体が激しく揺れ、アオイの小さな体は耐えられず、床にその身を投げ出してしまった。
「アオイさんっ!!」
咄嗟に彼女の背へと左腕をまわし、右腕の着物の袖でアオイの体と飛び散ったガラスの破片との間に壁をつくったセンスイ。
「…怪我はないですか?」
「は、はい…ありがとうございます。い、今のって…」
「…えぇ」
揺れが収まった中、バクバクと早鐘を打つ心の臓を押さえ、センスイの腕で小さく頷いたアオイだが…彼の瞳はすでに背後に感じる別の人物をとらえていた。
「…っまさか…」
気が付けば…
窓の外で輝く月の光よりも神々しく、押しつぶされそうな威圧感があたり一面を覆い尽くしている。そしてそれは普段誰よりも彼女に優しく、深い愛情を注いでくれる…とある偉大な男のものだった。
「…どうやらお父上がお出ましになられたようですね」
「私のアオイを連れ去るなど…貴様よほど死にたいようだな」
いつもならば誰よりも優先され、真っ先に互いを想い合う二人。気高い王と、愛くるしいこの姫は唯一無二の関係であり、絆は実にそれ以上のものだ。溺愛してやまない姫を奪われた王の怒りがどれほどのものか…この幼い姫はそれほど自覚していないのだった。
「おとう…さま…っ…」
学園での彼らの戦いが一瞬、アオイの脳裏をよぎり…どうにかしなくてはという焦りがアオイを突き動かした。
(…お父様には力になってもらいたいのに…このままじゃお互いが本当の敵になってしまう…っ!!)
昼間何もできずにいた無力な自分。クジョウという名の男が現れなかったら正直、センスイはどうなっていたかわからない。
「アオイさんが貴方のもの?今まで他の女性と逢瀬を楽しんでいたあなたがその言葉を口にしますか…」
「…逢瀬?私がアオイ以外の女に興味など抱くわけがない。…私も聞きたい事がある。
彼女に近づくために採用になった教師を消したのは貴様だな?」
「えぇ、私ですよ。水鏡に映ったアオイさんをずっと追いかけていました。ある一定の場所からその姿が消えていた理由もやっとわかりましたよ。悠久の城が…あなたの力が関係していたのですね」
「ならば次は…私が貴様の存在を消し去ってやろう」
(…私のせいでまた戦いになるなんて絶対に嫌…っ…!!)
「…お父様!私は攫われたわけじゃないの!勝手な事をしてごめんなさい…お叱りは受けますっ!!でも…せめて話を聞いてっっ!!」
センスイの前に飛び出したアオイは彼を庇うように翼を広げたキュリオへと悲痛な面持ちで懇願する。
「……」
すでに神剣が握られているキュリオの手がピクリと動いた。しかし、何も言わない彼へアオイは続ける。
「…お願いですお父様っ…!センスイ先生たちを助けてっ!!」
「アオイさん…」
自分のために必死に声を上げるアオイの小さな後ろ姿。
そしてようやく口を開いたキュリオ。
「…やめなさいアオイ。お前がその男を庇えば庇うほど…私の怒りは増すばかりだ」
「お前を攫ったその男を私が助けるなど…万が一にも有りはしない」
「…どう、して…?」
傷ついた表情を向けるアオイ。彼女にとって世界で最も頼もしく、誰よりも強いキュリオ。いままで大抵の我儘(わがまま)は受け入れてくれた彼が、ここ一番の願いを聞き入れてくれない。
ポロポロと零れ落ちるアオイの涙が頬を伝って床に落ちた。
「アオイさん、お気持ち有難くちょうだいします。しかし…先程も申し上げましたが、彼では無理です」
「…っどうして簡単に諦めてしまうんです!?やってみないと…わからないじゃないですかっ!!」
「アオイさん…」
わずかな憤りにセンスイを振り返ったアオイが次に見たものは…
視界の隅ではじけるキュリオの光。これは…茶室で見たあの時の力と同じものだと頭で理解するまで一瞬だった。しかし…アオイの体は反応出来ずにいる。
「…私に術は効かないと申し上げたはずです」
キュリオを見上げ、隣りに立ったセンスイの声が耳に響いたが…アオイの意識はどんどん重く、かすんでいく。
「…貴様ではない」
ハッとこちらを振り向いたセンスイの顔が光に埋もれ、徐々にあたりの声が遠くなっていく。そこでアオイは自分がキュリオの術にかかっているのだとようやく理解し始めた。
「狙いは…彼女ですか」
「おやすみアオイ」
「……そんな、おとう…さま…セン、スイ先生……」
(いや……)
(…お願い…夢なら、覚…めて…)
崩れゆくアオイの体を支えるセンスイ。
そして悲しみの色を浮かべたまま意識が途絶えた彼女の目尻に光る涙…。センスイは指先でそれを拭いながら呟いた。
「アオイさん…泣かせてばかりですみません。貴方に出会えて、本当に良かった…」
まるで今生の別れとなるようなセンスイの感謝の言葉。彼女のぬくもりを忘れぬよう、両腕でその体を強く抱きしめる。
「別れの挨拶は済んだか?」
真剣を掲げ、夜空を貫くキュリオのオーラが激しく燃え盛る。
そして背後のベッドへとアオイの体を横たえたセンスイが再びキュリオの前へと姿を現した。
「…私はそう簡単に死ぬわけには行かないのです」
低い声で呟いたセンスイはキュリオを見上げ、拳を強く握りしめた。
すると…
突然視界がぐにゃりと歪み…夜空が溶けるようにその姿を暗転させていく。
「…これは…」
「…ッアオイ!!」
「アオイさんっ!!」
やがて学園までもが崩れはじめ、アオイの元に向かった二人が目にしたのは…
「君たちおもしろい夢を見てるよねぇ…ここには三人、いや四人の夢が複雑に入り組んでいる…」
「お前は…」
驚いたキュリオの視線の先には巨大な鎌を持ち、アオイの傍らに座っている五大国・第三位、冥王マダラの姿だった―――。
アオイは否定的な言葉を口にするが、センスイはまったく聞き入れる様子がない。
「厄介なのは神剣ですが…私が見たところキュリオ殿と力の差はほとんどありません」
「…久しぶりに楽しい夜になりそうです」
スッと細められたセンスイの瞳はキュリオに対する憎悪のようなものが感じられる。窓辺から差し込む月の光が彼の顔に影を落とし…残酷なまでの美しさが余計に恐怖を煽るのだった―――。
「…お父様とまた戦うのですか…?」
「…えぇ、いつの時代も強い者がすべてを手に入れる…」
「優しさだけでは生き残れないのですよ?アオイさん」
"…貴方のそういう優しさが…彼女と、とてもよく似ているんです…"
そう呟いたセンスイの言葉を思い出し、隠された何かをようやくつかみ始めたアオイ。
「それって…」
言いかけたアオイが彼の傍に歩み寄ると…
―――ドォオオンッッ!!
「きゃぁっ!!」
耳を劈(つんざ)くような爆音とともに学園全体が激しく揺れ、アオイの小さな体は耐えられず、床にその身を投げ出してしまった。
「アオイさんっ!!」
咄嗟に彼女の背へと左腕をまわし、右腕の着物の袖でアオイの体と飛び散ったガラスの破片との間に壁をつくったセンスイ。
「…怪我はないですか?」
「は、はい…ありがとうございます。い、今のって…」
「…えぇ」
揺れが収まった中、バクバクと早鐘を打つ心の臓を押さえ、センスイの腕で小さく頷いたアオイだが…彼の瞳はすでに背後に感じる別の人物をとらえていた。
「…っまさか…」
気が付けば…
窓の外で輝く月の光よりも神々しく、押しつぶされそうな威圧感があたり一面を覆い尽くしている。そしてそれは普段誰よりも彼女に優しく、深い愛情を注いでくれる…とある偉大な男のものだった。
「…どうやらお父上がお出ましになられたようですね」
「私のアオイを連れ去るなど…貴様よほど死にたいようだな」
いつもならば誰よりも優先され、真っ先に互いを想い合う二人。気高い王と、愛くるしいこの姫は唯一無二の関係であり、絆は実にそれ以上のものだ。溺愛してやまない姫を奪われた王の怒りがどれほどのものか…この幼い姫はそれほど自覚していないのだった。
「おとう…さま…っ…」
学園での彼らの戦いが一瞬、アオイの脳裏をよぎり…どうにかしなくてはという焦りがアオイを突き動かした。
(…お父様には力になってもらいたいのに…このままじゃお互いが本当の敵になってしまう…っ!!)
昼間何もできずにいた無力な自分。クジョウという名の男が現れなかったら正直、センスイはどうなっていたかわからない。
「アオイさんが貴方のもの?今まで他の女性と逢瀬を楽しんでいたあなたがその言葉を口にしますか…」
「…逢瀬?私がアオイ以外の女に興味など抱くわけがない。…私も聞きたい事がある。
彼女に近づくために採用になった教師を消したのは貴様だな?」
「えぇ、私ですよ。水鏡に映ったアオイさんをずっと追いかけていました。ある一定の場所からその姿が消えていた理由もやっとわかりましたよ。悠久の城が…あなたの力が関係していたのですね」
「ならば次は…私が貴様の存在を消し去ってやろう」
(…私のせいでまた戦いになるなんて絶対に嫌…っ…!!)
「…お父様!私は攫われたわけじゃないの!勝手な事をしてごめんなさい…お叱りは受けますっ!!でも…せめて話を聞いてっっ!!」
センスイの前に飛び出したアオイは彼を庇うように翼を広げたキュリオへと悲痛な面持ちで懇願する。
「……」
すでに神剣が握られているキュリオの手がピクリと動いた。しかし、何も言わない彼へアオイは続ける。
「…お願いですお父様っ…!センスイ先生たちを助けてっ!!」
「アオイさん…」
自分のために必死に声を上げるアオイの小さな後ろ姿。
そしてようやく口を開いたキュリオ。
「…やめなさいアオイ。お前がその男を庇えば庇うほど…私の怒りは増すばかりだ」
「お前を攫ったその男を私が助けるなど…万が一にも有りはしない」
「…どう、して…?」
傷ついた表情を向けるアオイ。彼女にとって世界で最も頼もしく、誰よりも強いキュリオ。いままで大抵の我儘(わがまま)は受け入れてくれた彼が、ここ一番の願いを聞き入れてくれない。
ポロポロと零れ落ちるアオイの涙が頬を伝って床に落ちた。
「アオイさん、お気持ち有難くちょうだいします。しかし…先程も申し上げましたが、彼では無理です」
「…っどうして簡単に諦めてしまうんです!?やってみないと…わからないじゃないですかっ!!」
「アオイさん…」
わずかな憤りにセンスイを振り返ったアオイが次に見たものは…
視界の隅ではじけるキュリオの光。これは…茶室で見たあの時の力と同じものだと頭で理解するまで一瞬だった。しかし…アオイの体は反応出来ずにいる。
「…私に術は効かないと申し上げたはずです」
キュリオを見上げ、隣りに立ったセンスイの声が耳に響いたが…アオイの意識はどんどん重く、かすんでいく。
「…貴様ではない」
ハッとこちらを振り向いたセンスイの顔が光に埋もれ、徐々にあたりの声が遠くなっていく。そこでアオイは自分がキュリオの術にかかっているのだとようやく理解し始めた。
「狙いは…彼女ですか」
「おやすみアオイ」
「……そんな、おとう…さま…セン、スイ先生……」
(いや……)
(…お願い…夢なら、覚…めて…)
崩れゆくアオイの体を支えるセンスイ。
そして悲しみの色を浮かべたまま意識が途絶えた彼女の目尻に光る涙…。センスイは指先でそれを拭いながら呟いた。
「アオイさん…泣かせてばかりですみません。貴方に出会えて、本当に良かった…」
まるで今生の別れとなるようなセンスイの感謝の言葉。彼女のぬくもりを忘れぬよう、両腕でその体を強く抱きしめる。
「別れの挨拶は済んだか?」
真剣を掲げ、夜空を貫くキュリオのオーラが激しく燃え盛る。
そして背後のベッドへとアオイの体を横たえたセンスイが再びキュリオの前へと姿を現した。
「…私はそう簡単に死ぬわけには行かないのです」
低い声で呟いたセンスイはキュリオを見上げ、拳を強く握りしめた。
すると…
突然視界がぐにゃりと歪み…夜空が溶けるようにその姿を暗転させていく。
「…これは…」
「…ッアオイ!!」
「アオイさんっ!!」
やがて学園までもが崩れはじめ、アオイの元に向かった二人が目にしたのは…
「君たちおもしろい夢を見てるよねぇ…ここには三人、いや四人の夢が複雑に入り組んでいる…」
「お前は…」
驚いたキュリオの視線の先には巨大な鎌を持ち、アオイの傍らに座っている五大国・第三位、冥王マダラの姿だった―――。



