ファミリー

彼は当直医の自分が仮眠室に行くことを
あらかじめ知っていたらしい。

行き過ぎたと注意してくれたのだ。

よく気の回る子だった。

『もしも見ちまった時には、目を合わせ
ないようにね。
無視することですよ、無視』

どこかわざとらしい沖田の忠告も思い出し
たが、高森は向きを変え、ゆっくりと腰を
落とした。

幽霊だろうと何だろうと、好意めいたものを
示してくれたのだ。

とにかくそれに応えようと思った。

体をかがめて相手の目の位置まで顔を下げ、
まじめくさった表情を作る。

「サンキュ」