ファミリー

妙なものが追ってくるとわかっても、
怖くはなかった。

相手にしなければ、そのうちいなくなる
だろうと思っていた。

たとえ悪意を持っているとしても、
物理的に存在していないものが一体
どんな危害を加えるというのだ。

『出るのは、けっこうかわいい子
なんだって。
だけど間違っても自分から話しかけたり
しちゃだめですよ。
ほら、取り憑かれたりしたらやばいでしょ』

いいかげんにしか聞いていなかったはず
だった。

それなのになぜか沖田医師の言葉が細部
までよみがえってきた。

高森は俯き加減に黙々と足を運ぶ。

その時、白衣の右側の裾を引っぱられた。

両側に病室の並ぶ深夜の廊下である。

その位置には誰もいないはずだった。