ファミリー

野口は笑顔を見せて足早に通り過ぎたが、
高森の右隣には一度も視線を向けなかった。

彼女には見えていないのだ。

「どうも」

高森は曖昧に会釈をして、仮眠室まで
戻り、ドアを開けた。

入口に立ったまま手探りで明かりをつけ
ようとした時、もう一度白衣の右裾を
引かれた。

もの問いたげな視線が見上げている。

まるで入っていいかと訊ねているよう
に見えた。

一瞬迷ったが、高森は中に入れてやる
ことにした。

相手は霊なのだから、たとえ断っても
勝手に入ってくるかもしれない。

なるべく刺激しない方がいいだろう。

軽く頷いてやると、少年はドアの隙間
からひと足先に部屋に滑り込んだ。