ファミリー

「高森先生」

ナースステーションの方からパタパタと
足音が近づいてくる。

自分を見る若い看護師のけげんそうな表情
に気づき、高森は急いで身を起こした。

「どうかなさいましたか、先生」

「いや、ちょっとペンを落としてしまって。
何かありましたか」

「118号室からナースコールです」

「僕も一緒に行きましょうか?」

「いえ、大丈夫です。
もし問題があれば、ご連絡しますから」

きびきびと答える相手の名前を、高森は
まだ覚えていなかった。

胸元に目をやると、写真入りのIDカード
には野口早苗と書かれている。

「どうぞ先生はお休みになってください」