なかなか綺麗なところね、とイーリスはふうとため息をついた。
海があるというところも含め、なんだかのんびりしたところはなつかしみを感じる。
そういえば、とできれば考えたくなかった二人のことをイーリスはわずかに気にかけていた。
「あの二人、どこにいったの」
ヘルメスが引きずりおろされたのは見たのだが、物凄いスピードで船を去る船に何も言えず。
あの馬鹿船長はともかく、いかにも日に弱そうなヘルメスが心配だ。
日射病や熱中症や脱水になりそうな感じなので、にこにこ船医の雷が落ちる前に探しだそう。
と、言ってる間にイーリスの前をボートが突っ切って行った。
どこかで見た金髪ののった船はどういうわけか海パンにロングTシャツ姿でハンドルを握る赤髪を引っ張る。
綺麗な放物線を描きながらゆっくり一回転したヘルメスはイーリスを見つけたのかハンドルから手を離して海に沈んで行く。
板を外したらしいヘルメスはぱちゃぱちゃいいながらこちらへ泳いできた。
「船降りたのか」
「ええ。御覧の通り」
「じゃあ代われ。ゼウスがうるさい」
「どういうわけなの?」
「やれと言われたからやった」
「…そう」
目の前に浮かぶようなその情景にイーリスは溜息をついた。
「苦労してる」
「有難う」
「固いんだけど」
「ところでイーリス、何故麦わら帽子じゃないんだ。フードじゃ蒸れるだろうが。麦わら帽子のほうが可愛いし通気性もあって一石二鳥だ」
「地味に口説かないで。というかなんで帽子被ってるか聞かないの?」
下から日の射す“地光”のあるこの星で帽子は必要ない。
それとも勘のいいこのTHEイケメンは分かるのだろうか。
「何を言う。事実だ」
「…ちょっと」
後半を完全になかったことにされてイーリスは一瞬抗議の声をあげようとした。
「黙ってろ。ゼウスだ」
超近距離で口を塞がれてイーリスはヘルメスの横顔を見つめる。
こんな事を無意識にするからあの船長に無自覚って言われるの、ヘルメス。
出ない声では伝えようがない。
なんだか自分のキャラが崩壊した後固まりかけているのが感じられて、イーリスは深い溜息を心に落とした。
「イーリス、後で帽子買ってやるよ」
振り返って手を離されて、今度こそイーリスはヘルメスに見とれる。
「あ、ありがと」
「二度と俺とか言うなよ。お前可愛いんだから」
何もしられていないはずなのに、化け物と言われ男の姿で逃げ回っていたあの頃を、知っているのではないかと思った。
「ホセ……」
誰にも聞こえないように言ったはずの言葉は、届いてしまったようで。
「イーリス」
咎めるように発せられるはずの言葉が、感情なく紡がれた。
「ずるいわ。無自覚」
「よく言われる」
そういえば、ヘルメスが可愛い可愛い言うのって、他に誰がいるんだろ。
自分だけならいいな、なんてイーリスは思った。


