ギャンブルは嫌いだ。
いつも結果は見えないからだ。
昔、アメリカに仕事で行った時にカジノに行った事がある。
俺が座ったのはルーレットのスペースだった。
みんな好き好きに自分の気に入った数字に大金をかける。
負けが続くと、それが感覚を失うように、大金が飛んでいく。
赤と黒の回るボールを見つめながら、一瞬の夢を見る。

俺はその時思った。
運命はルーレットの様にグルグルと秒刻みに回る。
その結果は、誰にもわからない。
でも結果がわかるまで、人は夢を見る。
幸せな情景を思い浮かべて、自分の欲望のまま未来を思い描くんだ。
そして、その一瞬の幸せを人は喜び、落胆する。
俺はその様子を見ながら、思った。
喜び、悲しみ、怒り、全ての人間の感情がその場所にはあり、本当の人間の姿や本音が浮き彫りにされる。
人生をかけたルーレットは回り、全ての人生を巻き込み、のみこんでいく。

俺のルーレットは未だに未来がきまらずに回り続けていた。
江里は、俺の恵里奈への気持ちを確認した後、ただ何も言わずに乾いた服を着て帰って行った。
ただ一つ置き土産を残して。
俺が酔い潰れて、寝た後に目が醒めるとメモが残っていた。
そのメモにはお礼の言葉と携帯の番号が書かれていた。
以前の俺ならきっとその番号にすぐに着信を残していただろう。
下心と欲望に満ちた愛情のない気持ちのままに。
でも、俺はそのメモをじっと見つめた後、ためらいもなく静かにゴミ箱に捨てていた。
俺は、寂しさと孤独の中で、欲望を埋める感情など意味がないということがわかっていた。
今までの自分では壁は越える事が出来ないとさとっていた。
寂しさの上塗りは一層、自分の不甲斐なさと情けない姿が浮き彫りになるからだ。
なくなった愛情は誰かの愛情では埋める事は出来ない。
埋めた感覚に陥るだけだ。
俺はため息をつき、再び目を閉じた。
幸せのない現実を見つめながら、俺は眠りについた。