「ねー、碧ー。」

「何?」


家に帰り、夕食を食べている時、私は碧に話しかけた。


「この村の言い伝え、知ってるでしょ?」

「あー、妖狐がいるってやつ?馬鹿馬鹿しいよね。」


随分と冷めた口調だ。
まぁ、無理もない。
頭が良く、そういう非科学的なものに一切興味を示さない碧に、無謀にも私は馬鹿なことを聞こうとしているのだから。


「そうそう、その言い伝え。...いると思う?」


私のその言葉に、碧は呆れたように溜め息をついた。


「いるわけないじゃん、そんなの。え、まさか姉ちゃん信じてんの?」


軽蔑にも似たその目に、私はすぐに弁解する。


「んなわけないじゃん。」

「だよねー。」


ったく、もう少し可愛いげがあってもいいのに。


「そういえばそんな言い伝え、あったなー。」


お父さんが懐かしそうにそう言った。


「そうねぇ。小さい頃、妖狐探しとかしたわ。」


お母さんも昔を思い出して微笑む。


「でも、そんな言い伝えを話題にするなんて、何かあったのか?」

「んー、ソータが妖狐がいるとか言ってたから。」

「あら、奏ちゃんが?」

「うん。馬鹿みたいでしょ?」

「いや、妖狐は本当にいるんだぞ...?」


お父さんの悪戯っ子のような顔に、私も碧のように呆れて溜め息をついた。


「そういうのいいから。子どもじゃあるまいし。ごちそうさまー。」


私は夕食を終え、自分の部屋に戻った。

そういえば、妖狐の言い伝えなんて聞いたの、何年ぶりだろう。
確か、小学校の低学年の頃まで信じていた気がする。
小学校の高学年で、自分がどれだけ馬鹿だったのかを感じたけど。


「いるんなら、見てみたいけどなぁー。」


そんな、馬鹿みたいなことを呟く。


「って、いるわけないっつーの。」


独り言を呟き、その夜はそんな言い伝えのことを忘れてテレビのバラエティー番組を見ていた。