「お母さんは哲郎さんと結婚したこと、後悔してないわ。」
「叶うことなら、もう一度……。」
お母さんは別れてからも、お父さんを愛してた。
お父さんのことを“哲郎さん”と呼ぶのは、二人は本当に新婚だったという証だと私は思ってる。
一般家庭のように、“あなた”と呼び慣れる時間もなく、お母さんは女としての人生を終えた。
「……良いお母さんだな。」
「……お母さんは、私の誇りなの。」
バスに揺られながら、眼を閉じた。
時々ガタンと跳ねる振動を、少し心地好く思う。
「……だからお母さんが蔑まれはしないか、怖いの……。」

