そう言って差し出して来たのは、
ホットココアの缶。
「ココア?」
「寒いから、やるよ」
珍しいこともあるんだな。
朝陽があたしに、
何かしてくれるなんて。
「ありがと」
そう言って手を差し出すと、
朝陽は反対の手であたしの
手を引いた。
力を抜いていたあたしは、
よろよろと前に進み、
朝陽の目の前にいて。
目の前にいる彼は、
ただの友だちの顔ではない気がした。
「吉川」
「ん?」
「今度、どっか行こう」
「どっかって、どこ」
調子が少しばかり狂う。
ドキドキとか、
そんな感情はないけれど。
やっと話してくれたこととか、
でもやっぱり少し違うこととか。
「また誘う」
気を付けて帰れ。
それだけ言って、
朝陽は再び校舎の中に
戻って行った。
あたしは朝陽がくれたココアを、
カイロ替わりにポケットに入れ、
踵を返して家を目指した。
朝陽を見ていて思う。
蓮哉からしたら、
あたしは朝陽のような
存在なのかなって。
何度も連絡したり、
会いに行ったりしているあたしの
行動を、もし蓮哉が好きなのでは
ないかと気付いたとしたら。
あたしが朝陽に対して抱く感情と、
蓮哉があたしに抱く感情は、
イコールなのではないかと。
そうなのだとしたら、
あたしはどんなことをしたら、
友だち以上に見てもらえるのかな。
もし朝陽がこうしたら、
好きになるかもしれないって。
そんなこと、ありえるのかなって。
あたしが朝陽を好きになることが
ないように。
蓮哉もあたしを好きになることは、
ないのかな。
なんて考えていると、
蓮哉の会社の側まで来たことに気付いた。
蓮哉はまだ会社だろうか。
仕事してるのかな。
ぼんやりしていると、
目の前に男の人が5、6人で
集まっていて。
少し酔っているのか、
大声で騒いでいる。
酔っ払いの人には慣れてるし、
怖いとは思わない。
けど、お店以外だと、
あまり関わりたくない。
そんなことを考えていると、
階段を下りてくる人が来て。
「牧瀬~っ!」
酔っ払いの人たちは、
待ってましたと言わんばかりに
その人を笑顔で迎え入れている。
偶然で驚いた。
その人たちが待っていたのは、
他の誰でもなく、蓮哉だった。
「蓮…」
会いたくても会えなかった。
連絡しても繋がらなかった。
その彼が、
今目の前にいる。



