「最近家にいるのが寂しくてさ」




「それは分かるよ」





2人でしみじみと、


夕暮れの空を見ながら話す。


誰もいない教室が、


あたしのお気に入りの場所。





「さてと、そろそろ行かないと」




「あたしもう少しここにいる」





じゃあね、と手を振り、


急ぎ足で鳴海は教室を出て行った。


1人残ったあたしは、


机に顔を突っ伏して息を吐く。


どうしてだろう。


なぜだろう。


何もしたくない。


少し体がだるい。


気がすごく重い。


何をするわけでもないのに。





「帰ろう…」





鳴海が帰って数分もしないうちに、


あたしは鞄に荷物を放り込んだ。


こんなことなら、鳴海と一緒に


ここを出ればよかった。


1人って、やっぱ寂しい。


そんなことを思いながら鞄を肩にかけ、


廊下に向かって歩を進める。


教室を出ようとしたその時。






「わっ、と…」





教室に入って来た人にぶつかる。


驚いて2、3歩後ろに下がると。





「ごめん」





目の前にいたのは、


あれ以来話していない朝陽だった。





「あ、朝陽…」




「怪我してない?」




「え、うん…」






ことごとく、この男は、


あたしを戸惑わせる。


いつもなら、きっと。


謝れだのなんだのって、


文句付けて来るくせに。






「今帰り?」




「そうだけど?」





そう答えると、


朝陽は何を思い出したのか


その場を走り去った。





「何それ」





意味の分からない彼を無視して、


あたしは玄関に向かう。


朝陽がおかしくなった。


でもあたしには、どうしようもない。


彼はあたしを好きだと言ったが、


きっと何かの勘違い。


近くにいたから、


親しい仲だったから。


きっとそれだけ。


ただの思い違い。






「吉川!」





玄関で靴を履き替え、


校門に向かっている時。


後ろから大きい声で呼ばれ、


ビクついて振り返る。


そこには、息を切らして、


靴を履き替えずに走って来る


朝陽の姿があった。





「待ってろって言っただろ…」




「え、言われてないけど」




肩を上下させ、


息を整える朝陽。


勝手に怒って、


好き勝手言ってくる。






「何?あたし、帰るけど」




「これ」