「今すぐ返事しろとか言わない」




友だちだった朝陽が、


一気に男に見えた。




「何かあったなら俺に言って。どこでも飛んで行くし、絶対守る」




「朝陽…」




「ごめん、こんな所連れて来て。腕、痛かった?」





そう言うと、


近かった距離が少し遠くなり、


あたしと朝陽の間に隙間が出来た。


朝陽はあたしに少しも触れず、


ドアに手をかけ。


またなと言い残し、部室を


出て行った。


あたしはその場で、


ほっと胸を撫で下ろす。


朝陽があたしのことを好きだと言った。


でもあたし、少しもときめかなかった。


嬉しかった。


好きだと言われたことは。


だけど、それ以上に悲しくなった。


あたしは朝陽の想いに応えられない。


ということは、もう友だちでも


いられないのかな。


そんなことを考えながら、


あたしも部室を出た。


教室に戻ると、担任があたしを


待っていて。


遅刻とみなして放課後掃除しろ、


なんて言われる始末。


朝陽のせいだ。


そう思いながらも、


この思いは本人に言えないのか。


なんて考えて、


やっぱり悲しくなった。





「何だったの、朝の朝陽」




「んー、何かね」




遅刻の罰での掃除を


鳴海を2人でやることに。


放課後の誰もいない教室。


朝の出来事を細かく話すと、


鳴海は驚きを隠せないのか、


少しの間、言葉を出さなかった。





「意外なんだけど」




「あたしも意外過ぎて何も言えなかった」




本当にそんな素振りもなく、


ただ淡々と過ごして来たから、


今更恋愛対象に見ろって言われても、


絶対的に無理で。


だけど想ってくれていることに、


一生懸命応えないと、


と思うあたしもいて。





「朝陽が…ね」





その日から、


朝陽と話すことはなくなった。


変に意識しているのは、


あたしではなく彼の方。


そしてあたしの態度も悪かったから。


こうして離れていくのか、なんて


思ったりもしたけど。


朝陽がそれを選ぶのならば、


あたしはそれでいいと思った。


答えを出すことが正解じゃない。


このまま時が過ぎて、


いつかまた話せればいい。


そう思うあたしがいた。











「今日どっか寄って行かない?」




「あー、ごめん。今日バイトだ」




それまで一緒にいよ。


そう言う鳴海に、


仕方ないなと返す。


10月も終わりに近付き。


寒さが一向に増したこの頃。





「最近連絡取った?」




「…取ってない」




終わらないと、と決めた。


好きだ、と気付いた。


なのにどっちも踏み出せない。


悠太郎も蓮哉も、


どっちも連絡が来なくて。


まだ自分からする勇気もなくて、


何も出来ないでいた。