「ここでいいの?」




「そう、ここあたしの家だから」




家まで送ってもらうと、


ありがとうと言って


車を降りた。




「今度まじで飯付き合ってよ」




「そうだね、連れてって」




「何かあったら連絡して」





そう言って、


あたしたちは連絡先を


交換した。


何でも力になる。


そういう健斗くんに、


また頼ってしまうのか。





「ごめんね、何か色々」




「蓮哉さん、前はあんなに笑わなかったんだよ」




「そうなの?」




健斗くんは何かを思い出すように、


目を瞑り、少し笑った。






「いい人なのは変わらないけど、女にも興味持たないし、とにかく仕事ばっかりしてた」





モテてはいたけどね。


そう言いながらも昔の蓮哉のことを


教えてくれる。


数々のエピソードが、今の蓮哉に


繋がってるなんて、変な感じ。


でも結局行きつく所は、


蓮哉がみんなの中で大きい存在だ


ということ。


楽しそうに話す健斗くんは、


なぜか蓮哉を尊敬してるみたいで。






「またね、妃名子」




「うん、ありがとう。おやすみなさい」





健斗くんは小さく手を振り、


窓を閉め車を走らせた。


いなくなった車を確認し、


自分の家の中に入る。


お風呂を済ませ、簡単な物を食べ。


部屋に戻ってベッドに沈んだ。


すると電話が鳴り、


急いで手に取る。


相手は鳴海だった。






『妃名子?ごめん、あたし車で寝てたみたいで』




「みたいだね。楽しかった?」




『うん、楽しかった。…そんなことより、妃名子の方は…』




「あー、うん。また学校で話すね」





それより、と朝陽のことを話す。


あんな朝陽も初めて見たけど、


何であんな所にいたんだろう。


何だかすごい怒ってたけど。






『きっと休み開けたら色々聞いて来るんだろうね』




「何で朝陽って感じなんだけど」




『確かに。ま、とりあえずゆっくり休んで』




「うん、おやすみ」





電話を切り、携帯をあたしから


1番遠い場所に置いた。


鳴らない携帯。


期待しても、来ない連絡。


分かってる。


もう蓮哉は、あたしを


どうとも思ってない。


だけどあたしが、諦められないだけ。





「はぁ…」





好きだなんて、嘘であってほしい。


そう願っていても、


思いとは裏腹に考えてしまう。


常に蓮哉で頭がいっぱいで、


何をしてもさっきのことが出てくる。


あんなに冷たい蓮哉を初めて見て、


心底驚いている。


悲しい。寂しい。会いたい。


どんな蓮哉でも、蓮哉だもん。


あたしの知ってる蓮哉は、


もっと優しくて意地悪で。


いつかまた蓮哉に逢えるかな。


そんなことを考えて、


寝るに寝つけなかった。