「何かごめんね、健斗くん。まだ会って2回目なのに」




健斗くんは、気を遣ってか、


車内の音楽の音量を下げてくれた。


静かな車内で、


あたしの空回りな会話だけが


響いていて。





「蓮哉、健斗くんも呼んだの?ごめんね、迷惑かけちゃって」




あたしなんて、どうでもいいのに。


そう呟くと、健斗くんは。





「無理に笑わなくてもいいし、どうでもいいなんて言うべきじゃないと思うよ」




優しく、そう言った。


みんなが優しいから。


あたしは甘えてしまう。


何もしなくても、


時が進めばいいのに。


嫌なことをなかったことにして。


楽しいことだけをして。


好きな時間に戻れて。


そんな人生だったら、


どれだけ楽か。





「俺、妃名子と木嶋さんのことも知ってる」




俺も結構木嶋さんと仲良いんだ、と。


初めて知ったけど、確かに


そんな感じがした。


話を聞けば、健斗くんは、


悠太郎の会社の系列会社の


社員らしく。


蓮哉や千秋さんたちと肩を


並べるくらい、悠太郎とも


仲が良いらしい。





「あたしね、何が正解かも分からない」




悠太郎と離れようとすること。


今までやってきたこと。


蓮哉を好きだと思ったこと。


全部全部何が正解なのか


分からない。





「もう何をしても、誰かを傷付ける。自分だって傷付くのが怖い。だから何も…」




「妃名子は十分色々考えてる。誰だって傷付くのは怖いよ」





手の中には壊れたキーホルダー。


それを見ながら思うこと。


やっぱり蓮哉に会いたい。


話したい。触れたい。


一緒にいたい。





「何が正解か分かんないかもしれないけど」





伝えたいことがたくさんある。


あたしの気持ちも、


今までのありがとうも、


ごめんねも、全部言いたい。


だけど蓮哉は、あたしを拒絶した。





「何が不正解かも分かってないじゃん」




「健斗くん…」




「間違ったらまたやり直せばいいじゃん。諦めんなよ」





健斗くんに言われる一言たちが、


あたしに勇気をくれた。


元気をくれた。


何が不正解か分からない。


そうだよ。


正解も分からなければ、


不正解も分からない。


それを知るために、


何かをするんだ。





「健斗くん、ありがとう」




「蓮哉さん攻略なんて簡単だって」




「攻略?」




「むしろ妃名子はもう出来てると思うけど」





あたしが、蓮哉を、攻略?


出来てたら、苦労しないのに。






「千秋さんも言ってただろ。妃名子にしか蓮哉さん説得出来ないって」




「でも、あたしに、そんな力ないよ」




「力があるかどうかが問題じゃない。妃名子がいるかいないかが、蓮哉さんにとって問題なんだよ」





分かる?と、笑いながら言う健斗くん。


あたしが、いるかいないか…?