「乗ってくれる?」





躊躇うことなく、


あたしは頷いた。


そして、彼の手の上に


ゆっくり手を乗せた。


何だろう、この気持ち。


嬉しくて仕方ない。


助手席のドアを開けてくれた


木嶋さんは、すごく紳士的で。


運転席に乗り込んだ彼からは、


少し甘い香りがした。





「ちょっと走るね」





「はい」





隣に乗っている大人の男は、


誰よりも輝いて見えた。


あたしの周りなんかにはいない、


かっこよくて大人で優しくて。


この人に愛される人は、


きっと大事にされている。


そう思った。


まだ2回目、


いや正確には3回目。






「うわ、すごく綺麗」






車が停まったのは、


港のそば。


湖をはさんだ向こうには、


桜並木がずらりと並び、


それらがライトアップされていた。


こんな場所も知らなかったあたしが、


こんな幻想的なものを


知り得るはずがなく。





「ずっと会いたかった」





突然ぽつりと呟く。


あたしは木嶋さんを見て、


固まってしまう。


見惚れた、というのが


正しいんだと思う。


薄暗い車内に差し込む


街灯の灯りが、


彼を照らしていて。





「名前は?」





「吉川 妃名子です」





「妃名子か」






甘く、優しく。


あたしの名を囁く木嶋さん。


ゆっくり近付いて。


視線と視線が絡んで。






「んっ…」






唇を重ねた。


包むように彼は


あたしの髪を撫でる。


そのどれもが心地よくて。